カウンセリングルームの窓から #184


カウンセリングルームの窓から(184)

 

―心が本気になったとき―

美知さん(仮名)は、いわゆる”不潔恐怖症”で、プラスチックやアルミなどでできている製品に触れることができません。

木材でできている製品はOKです。

その為、美和さんは実家の居酒屋を手伝っているのですが、イスやテーブルなどは殆どプラスチックやビニールですので触れることができないのです。

 

美和さんのこの症状の発生は23歳の時で、元々の神経質な”内的要因”に加え、失恋という”外的要因”がプラスされ神経症が形成されました。

神経症はその発生システムがある程度はっきりしていますので対応が可能です。

誤解をされたくないので補しますが、神経質という内的要因は”マイナス面とプラス面”があり、そのマイナス面が強い時に、例えば離婚や失恋、失業・倒産などの外的要因がきっかけとなり発生します。

ちなみにその外的要因ですが、上記に挙げた”悲しいこと・辛いこと”だけではなく、一般に進学、昇進、結婚といった”嬉しいこと”でも人によって神経症の外的要因になり得ます。

また、神経症は症状が同じであっても個人によって苦悩や治癒過程が異なりますので公式をそのままあてはめない様にしなければなりません。

 

さて先に述べた、美知さんの外的要因である”失恋”ですが、実は美輪さんは失恋と言っているものの、話をよく訊いてみると、付き合っていた彼に対し、美知さん自身が相手の意思に拘わらず、勝手に身をひいていた事が分かりました。

つまりフられた、という事ではないのです。

仕事も辞め実家の手伝いをしていたのですが、ある時店のイスを拭いているとそのイスのビニールに対し表現のしようのない嫌悪感が出てきて、触れることができなくなってしまったのだそうです。

そのうちイスだけでなくテーブルの合成樹皮やアルミにも触れなくなってしまい、そうなると当然、手伝いに支障をきたしますので、結果、美和さんはプチひきこもりになってしまいました。

 

お母さんは女手一つで美知さんを大学まで出し、幸せな美知さんの結婚を夢見ていたので大変なショックです。

美知さんには何不自由なく結婚してほしいと、美知さんの結婚資金も充分に蓄えていました。

 

そんなお母さん、美和さんがプチひきこもりになっても店の手伝いができなくても、耐えて温かく見守ってくれていました。

気分転換に美知さんがイギリスへ行きたいと言えばお小遣いもくれるし、時々錯乱状態になっても美知さんを受け止め、翌日の仕事があるのに一晩中寄り添ってくれました。

55歳の母親独りで、何から何までやるのは身体に堪えます。

しかし、お母さんは仕事と美知さんの面倒をきちんとこなしていたのです。

 

ある日、当センターにお母さんと二人で来られました。

美知さんは、自分の母親に感謝していること、これからのライフワークを見つけていき母親に恩返ししたいこと、人の役立つ仕事をしたいこと等を話してくれました。

お母さんは”ゆっくり”治せば良い、仕事も焦らないでほしいと話します。

二人のコミュニケーションも充分に取れています。

 

その後、何回か面談を重ねたある日、「美知さん、恋愛や結婚は考えていないのですか」と、一人の面談時に問うと、俯き泣き出してしまいました。

その時に、先に述べた彼のことをゆっくりと時間をかけて聴きました。

どうして別れてしまったのか、本当に捨てられてしまったのか、彼にどのように別れの言葉を言われたのか、等。

美知さんは正直に話してくれました。

美知さんが勝手に彼を避けていること、好きだけど一緒になってはいけないと思っていること、自分だけ幸福になってはいけないこと、と美和さんは思っているようです。

そして、それまでは冷静に話してくれていたのに、突然鬼のような顔で、『私は幸せになってはいけないのです!』と自分を責めるように言いました。

 

『彼にずっと嘘を言っていました。
・・・私バージンじゃなかったんです。
彼は私のことをバージンだと思っているんです。
彼は女性を未だ知らないんです。』

さらに、

『あんな良い男性(ひと)いません!
大好きです!
・・・でも私には資格がないと思うんです。』

 

と、美和さんは感情を吐き出しました。

 

今どき、珍しい感性で純真だな、と感心しましたが、神経質傾向の人はマイナス面に偏よると、反省心が強すぎて、そのエネルギーが”怒り”に転嫁してしまいます。

”怒り”のエネルギーは自己破壊となり悪循環を繰り返します。

 

その後美知さんと、”神経質の性格傾向”、”外的要因と内的要因の関係”、”人間の間違った価値基準”、”自己反省と自己洞察”などを、時間をかけて話し合っていきました。

 

次第に美知さんは、自分の独善的なものの見方や価値基準を自覚することができてきました。

そればかりか、人間は”過ちの繰り返し”や、”挫折”の中で”本物”を自覚できていく、と言う事を実感できてきたのです。

 

今、美知さんは”間違って当たり前”という楽天的な思考と、”間違ったら努力して直していく”という真剣な心を感じています。

そして、大好きな彼にもう一度アタックしてみること、母親には感謝の気持ちでこれからも接していくことを”決意”しました。

 

決意した人間は強いし、必ず成功します。

なぜなら、心が本気になったとき”感覚器官”は研ぎ澄まされ、”決意”に基づいた思考、行動になっていくからです。

 

神経症などは、治癒する時は、瞬時に治癒するものです。

 

 

次回もカウンセリングルームの窓から(185)です。